KANGEKI-LOG

観劇とか感激とか思考の吐き出しとか

【備忘録】フィンガーフードの相対性理論

 HOME10周年記念公演「フィンガーフードの相対性理論」、2日間全4公演、ご観劇下さった皆さま、ありがとうございました!instagtamにも色々書きましたが(若干重複してます)、ブログでも改めて。

 本当に、本当に楽しかったです。それもこれも、観てくださった方、私の拙さを芝居の中でフォローしてくださった役者の皆様のおかげです。感謝、感謝です。

公演チラシ。制作お手伝いしました

 

公演について

 公演場所は信濃ギャラリー。1階と2階で、内容がリンクした二つの物語が同時進行する。お客さんは1公演につきどちらかしか見られない。1階は怪しいスピリチュアルセミナー、2階は死んだ魂が行き着く場所。一部の役が1階と2階を行き来する。生者と死者が交錯し、後悔や心残りを一つずつ、手放していく。

登場人物の名前は「おつまみ=フィンガーフード」に因んだネーミングになっている。

チラシのあらすじ部分

 

自分の役「伊香先サチコ」のこと 

 設定を頂いた時の第一印象は「ヤバそうな人だ…!」でした。だってなんかヤバい宗教?にハマりこんでいるし、事務局長とかやっちゃってる。昨秋、如月ジロー先生の脚本で演じた「陸之雷知」も頭のおかしい人だったので(今回も頭のおかしい人じゃん!)と思ったし、しばらくは何をどうやっても陸之になるので困ってました。別人なのにね!頭のおかしい人のレパートリーが少ない。

 サチコは、兄を亡くした女性です。そして兄の死の原因は、自分にあると思っている。喪失感や自責の念にさいなまれて生きている。そんな彼女は、グッドヒーリングセンスと伊集院聖子に出会い、喪失感や自責から解放されます。でもそれは表向きのことで、実際は内側にあるものを見てみぬふりをしてるだけ。その歪みが挙動にも現れて、洗脳されているような、意識が遠くに持ってかれているような「頭のおかしい人」感が言動ににじみ出ている。

 難しかったです。私、この年になってもなお、身近な人を亡くしたことがなくて。祖父母は両家健在だし、犬とか猫も飼ったことない。あと長女なので兄も姉もいない。喪失感がびっくりするほどわからない。ほんとう、公演一週間前とかになってもまだわからなくて、ぴしゃりとお叱りの一言もいただき、迷走してました。

 役者が涙を流す芝居(あるいは涙を流せる役者)、というのが必ずしも「良い芝居(役者)」ではないことは重々承知している一方で、少なくとも兄との再会でサチコが泣かないなら、それこそ「嘘の芝居」だろう、という気持ちもあり。

 サチコの背景を色々考えてました。風邪を引くといつもお兄ちゃんが看病してくれたんだろうな。だとすると、両親は忙しい人だったのかな。リンゴ農家とかも良いかもしれない。風邪の時に食べる刷りリンゴは実家の味だったとか…と、もはやどうでも良いことまでぐるぐる。お兄ちゃんが大好きで、結構なブラコンだったんだろうな。お兄ちゃんも「めんどくせー」って顔しながらなんだかんだめためたに甘やかしてたんだろうな。でも「喪失感」は自分の中にはなかなか生じて来なくて、全然サチコに寄り添えなかった。

 一つの転機が、煮詰まって駆け込んだ1人カラオケで。そこで大塚愛の「プラネタリウム」を歌ってみたら、途中でぶわっと、コウに手を引かれる小さなサチコの絵が浮かんで来たんですね。そしたらなんか「もうこの光景はどこにもないし、再現もできないんだ」って気持ちになって、ぐしょぐしょに泣いてしまって(歌の力ってすごいな)。歌っては台詞を言う、歌っては台詞を言う、を狂ったように繰り返して「これは何かをつかんだのでは…!?」と意気揚々と稽古に向かったんですけど、まあ、駄目で。駄目と言っても、何かがこう「出かってる」感じはするんですけど、出ない。つかめそうなのに、つかめない。そのまま本番当日。

 1ステはもはや何も覚えてないレベル。でも、指輪の下りを話したときに猛烈に悲しくなってしまって、その時点で勝手に声が震えて動揺し、そのあと再開で突然涙が出たことにおよよよよとなってた(慌てた)。2ステではまさかの冒頭の台詞が吹っ飛ぶ。3ステは思ってた以上に顔面がぐしょぐしょになってしまって焦り「一瞬素の自分に戻ってた(フミエさん談)」になってしまい。4ステでは突然むせてしまってびっくりした…。声が掠れて出なくなったらどうしようと内心焦ってたんですけれども、持ち直せて良かった。宇宙悪魔とかが私を攻撃してきたんですね、多分。個人的には4ステ目が一番、出したいものを出せたかなと思っています(もちろん、反省点は多々あるけれど)。

 全公演で言ったかは自信ないのですが、コウに抱きついて言った「ごめんね、ありがとう」は脚本にはなくて、本番に自然と出てきた言葉でした。思い返せばそれは、ジャキ君(死者)がサラさん(生者)に宛てたメッセージとも一緒で。生きてる人も、死んだ人も、大切な人に伝えたいことはたくさんあって、でも結局絞り出せるのは、この二つなのかも知れないな、なんてことを今は思ったりします。

 私は役の中で一番、お客さんに絡める役だったのですが、いかんせん動きのパターンが少なくて、パイプかパイプユニッシュ()をぶんぶん振りながら右から左までを移動するみたいなのを延々とやり続けていて…すまない…笑ってくれた方ありがとう…。観て下さる方がいるから、お芝居って完成するんだなと身をもって思いました。感謝。

 

小道具のこと

  今回の公演は照明も音響もなし(2階は少しだけBGM入りましたが)で、大道具も2階のどこでもドアくらい。本番を前に、私にも何かできることはないかなぁ…って考えてたときに「パイプだ!!」となりました。なんてったって、少なくとも一つは「芯(パイプなのに芯って何)には不死鳥の尾羽を使い、本体には特殊な塩ビを用いたパイプ」ですから。その1本くらいはふさわしい装いにしなくては…という使命感に駆られ、仕事の合間に100均に駆け込む。なんか銀色っぽくてキラキラしたシールとかシートを買って稽古場に持っていったら、他のパイプもどんどんみんなで飾り付けることになって。キラキラ~になりました。あんなに物をデコった経験今までなかった。楽しかった。来世はパイプ職人になろうと思います。

 あと「人生を激変する 伊集院聖子10000の言葉」(のカバー)を本番前日に作りました。勢いで。前説後に手持ち無沙汰になるのと、公演中万が一1階と2階でタイムラグが発生した際、芝居のネタにしてもらえればと思って作った小道具でした。オビに使った男性の写真は、フリー写真素材サイト(写真AC)で「おじさん 外国人」で検索して出てきたものです。全体的なデザインは、そこはかとない自費出版感が売りです。前説時点から興味を示してくれた方もいて、嬉しかったです。

 そういえば、公演中の「聖子先生語録その●●●」の番号は、両親の誕生日と私の誕生日にしました。忘れるので。最後の公演だけ獣の数字を出しました。

 私の思いつきを温かく「いいよー」って言って下さった座組の皆さん、ありがとうございました。作るの楽しかったです。

小道具。水色のパイプは指輪を引っかける爪をコウさんが内側に付けてくれました

 

座組の皆さんへ

個人的なメッセージ。プライバシー保護のため役名で。

美牛サラさん

 劇中での絡みが多かったのもあり、たくさんお世話になりました。私の芝居が安定せず、毎回ころころ変わるので、合わせていくのがすごく大変だったのではと…思います…(陳謝)。サラさんのお芝居には芯の強さがあって、それがサラと重なる瞬間がとても好きでした。あと笑った時にふっと緩まる目元と「バカ」の時の言葉の響き。あと本番、ステを経るごとにジャキへの手紙を読む声がどんどん深まっていく感じがして、私もジャキのことが好きだなあって思いました。

 

美牛ジャキさん

 それぞれ1階固定、2階固定の役だったので脚本上の絡みは皆無でしたが、私がサチコに寄り添えたのは、本番前にジャキ&サラのシーンを見られたからだと思っています。ジャキ君の「俺なんか忘れて早く幸せになれよ」とか「もう、帰りな」があんまりに優しくて、不器用で。そんな彼だからサラは好きになっちゃったんだろうなと。たったそこだけのお芝居でも全部、わかっちゃいました。ジャキさんのお芝居、今度は最初から最後まで観たいです(とはいえ「箱庭迷宮」実は観に行ってました!)。

 

折部ルイさん

 ルイさんのお芝居やまなざしに感じたのは「心」でした。心には力がある、言葉がなくても形がなくても何かを手渡すことができる――そう信じている、あるいはそう信じたいという、ある種の気迫というかパワーというか……そういうものを感じていました。私が頭を抱えてるときにサチコの内側を言葉にして掘り下げてくれたり、劇中でもぐいっとサチコを引き上げてくれてありがとうございました。あわよくばこれから少しずつ敬語を脱却してなれなれしくしたいです。

 

柿種ナツさん

 本番中1回、ナツさんの「先生は霊の声を聞いているの~」に反応しかけ、慌てて取り繕いました(取り繕えてなかったかもしれない)。ナツさんの声や立ち振る舞いには強い存在感があって(幽霊だけど)、見えてないように振る舞うのが大変でした!笑 「いかさんフフッ」大好き。役としての絡みはなかったけれど、お稽古でふとしたときに笑いかけてくれたり、くっついてくれたりしてくれるのが嬉しかったです。あと、銀パイプ持ち帰って下さってありがとうございました…!!

 

大天使さん

 色んな人にたくさんイジられたね!大天使さんはもうなんか「存在が面白い」が座組の共通認識になってて、その期待に応えなきゃいけない部分とか、でも応え過ぎてしまうと「控えめに」にって言われる部分とか、色々な塩梅が、本人・役ともにとても難しかったのではと思います。大天使さんのどの役をやってもにじみ出てくる個性と、これからはそこに付加されるキャラクター性、両方を楽しみにしてます。12月頑張れ~!そしてスカート、すっかり定着したね~。

 

小天使さん

 小天使さんの「いっけなーい殺意殺意」をまともに聞く機会がなかったのが、この公演の大きな心残りです…。小天使さんは、感情を込めた台詞というよりあえて棒っぽくする台詞が結構あって、難しそうだなあとひそかに思っていました。でもそこにばっちりハマってて、すごいなあってなっていた。「可愛い」はもちろん、この先、色々な役の小天使さんを観られるのを楽しみにしてます。一緒に色々なワークショップやカフェも巡りましょ~ディズニーカラオケもしましょうね~!

 

リナさん

 リナさんの静かな闘志というか、朴訥とした雰囲気の中にちゃんと野心がある感じが好きだし、本当の意味でタフネスだなと思っています。忙しい中稽古に来てきっちり何を得た物を持ち帰っていく感じ、すごい。「わぁ!」に悩む姿が可愛かったし、安易に椅子を転がしたくないという強い意志を勝手に受け取っていた…笑 裏方として人を支えるのも似合ってるけど、やっぱりででーんと芝居してるリナさんが観たいなあというのが私の本音。また一緒に掛け合いしたいな!

 

フミエさん

 縁の下の力持ちとはフミエさんのこと…!と節々で思っていました。誰もが大変と思っていることを、誰も見ていないところできちっきちっと進めていく。いつもお芝居を客観的に観ていてくれていて、いただく言葉には時々恥ずかしくて情けなくて頭抱えたくなることもあったのですが、おかげで少しずつ修正したり、考えたりで前に進む箏ができました。そして最後の最後「その本あんま売れてないよね」のアドリブについ反応しちゃってすみませんでした。笑

 

伊香先コウさん

 「劇中夢」に続きお世話になりました。私の集中力と役への深度が本番直前まであまりにぱっとせずやきもきさせたのではと思います(陳謝)。コウさんのお芝居のおかげで、特に3、4ステは本当に「兄妹」になれたなと手応えがありました。厳しいも優しい、大好きな「お兄ちゃん」が目の前にいて、サチコがちゃんと、自分の内側からわき上がるものから泣いてました。最後の最後に、サチコに寄りそってあげられる芝居ができて、嬉しかったです。また色々、お芝居のこと教えていただきたいです。

 

伊集院聖子さん

 演出、役者…と1人何役もこなされる聖子さん。ご負担を掛けている身でもあったので、倒れてしまわれないかハラハラしていました。本当に、お疲れさまでした。聖子さんの芝居は自由奔放に見えてすごく緻密というか、全神経を使っている印象があります。すごく心身に負荷がかかっていそう。でも全力で芝居に生きることを楽しまれている。観た誰もにそれが伝わる。そんな聖子さんのお芝居が好きです。私もアドリブに応えられる柔軟な役者になりたいなあ…と思いつつ。聖子先生のキャラは強烈で、やもすれば怪しい宗教団体の怪しい教祖のはずなのに、憎めないというか、後ろ暗さを感じさせないというか、あのあっけらかんとした感じがとっても好きです。たくさん元気をもらいました。今回の公演にお声掛けいただけて、HOMEにも入居させていただいて、たくさん気に掛けて下さって本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。