KANGEKI-LOG

観劇とか感激とか思考の吐き出しとか

【観劇記録】『ピアニシモ』


あらすじ
透とヒカル。
どんな時もふたりは共にあり。ふたりは縛り合う。そうやって生きてきた。ふたり。
転校を繰り返す透は、高校3年のある日、その学校へ転校をしてきた。
澱んだ水たまりが日を受けて、甘酸っぱい匂いのするその場所で、彼はいじめに遭う。
ヒカルと共に灰色の街を彷徨い、マッチングアプリで出会ったのは地獄にいるという少女だった。
これは、とても柔らかく、殺されていく世界に生きる、ふたりの、物語。

ZOOMを使っての生配信朗読劇!BGMも生演奏!初めての体験でした。
ヒカルは透にしか視えないイマジナリーフレンドなのですが(冒頭で明かされるのでネタバレではない)、ZOOMの背景画像(でいいのかな)を活用したヒカル役・米原幸佑さんの画面の表現が面白かったです。生演奏のピアノの指先がみえるのも好きでした…。LINEの着信音や学校のチャイムがBGMに織り込まれていて、学校でないシーン(けれどクラスメイトたちが登場する後半のシーン)にチャイムが織り込まれていたのも「あばば…」となった。

今回上演する「ピアニシモ」は、1989年に第13回すばる文学賞集英社が主催する純文学の公募新人文学賞)を受賞し、翌年に発売された辻仁成の処女作。都会のコンクリートジャングルを彷徨う孤独な少年の心の荒廃と自立への闘いを描いた、新時代への青春小説だ 引用元

マッチングアプリは原作では「伝言ダイヤル」だったようです。教室の描写や駅のホームの空気感などの描写はかなり比喩が多くて、おそらくかなり原作を踏襲しているのかなと思います(一度きりの読み上げなので記憶に鮮明には残らないのですが、どれも納得感のある描写でした)。そして、30年経っても、いじめも自殺も未だ「社会問題」で、少年少女の、人間のいきぐるしさが少しも変わっていないことに、頭を強く殴られてしまう。

あらすじの通り、明るい物語ではないです。特に後半は透を取り巻く(透にはどうにもできない)環境が加速度的に悪化していくので、辛い人は辛いかもしれない。いや、私も辛かったのですが…。

いくつもの役を巧みに演じ分ける役者さんたちに圧倒されました。ZOOM配信なので、表情がくっきりみえるのと、誰が話しているのかわかりやすい(名前が出たり画像に縁取りがでたりする)のがありがたかったです。

透役の村井良大さんは前半の淡々とした感じと後半の堰を切ったような感情の発露のギャップに気圧されました。ヒカル役の米原幸佑さんは一番画面での動きが多くてついつい目が行ってしまって、そしてお顔が似てるわけでないのに「透だ」とも思わされるのが不思議でした。サキ役の小泉萌香さんは最後まで本心が見えない/見せない声の「透明さ」がまさにサキだった。祁答院雄貴さんの個性的な声、好きだな。小野川晶さんの声、特に母親のお声が心地よかった。若宮亮さんは地の文の読み上げが一番好き。板倉光隆さんの低いお声おやばかったな…「あのひと」は一体最後、何を思っていたのだろう。

物語が重めなので万人に「見て!」と言える物語ではありませんが、生の舞台を見る機会がほぼ失われているご時世にこうして私たちに舞台を届けてくださったことが本当に嬉しくて、ありがたくて。再演がよりたくさんの人に届きますように。

*memo*
PUBLIC∴GARDEN!オンラインリーディング公演vol.2『ピアニシモ』
上演台本・演出:元吉庸泰
キャスト:村井良大米原幸佑、小泉萌香、祁答院雄貴、小野川晶(虚構の劇団)、若宮亮(エムキチビート)、板倉光隆
音楽・ピアノ演奏:吉田能(あやめ十八番)
原作:辻仁成
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000030710.html


以下個人的なネタバレ感想メモ(箇条書き)

・共感する、というよりも過去の「もしかしたらの私」をみている感覚。駅のホームの白線の上、紙面に記された楽譜の上、境界線の淵に立つ感覚、踏み越えたい、踏み越えたくない…ぐるぐる、ふらふらとした足元の定まらない感じ。一歩踏み出した時、人はベビーカーのブレーキを外してしまったり、電車に飛び込んだり、ビルから飛び降りたり、人を殴ったりするのだろう。
・「バカに生きられたら」「透明になりたい」はサキの「本音」だと思う。サキの本当の姿は私たちに明かされなかったけれど、それがまた私は物語としては好きだなと思う。
・再生というには失ったものが多くて手放しに喜べない(し、サトル君大丈夫だったのだろうか…)けど、透にはいきていってほしい。
・ヒカルとの別れ、母が「あの女」から「母」になる、が透の変化の象徴だと思うんだけど、でもそれを「再生」と呼べるかは私的には微妙で、どちらかというと「それでも生きるしかない」というメッセージのように感じた。
・ヒカルとの別れは透が生きていくならかならず直面したと思うけれど、あのタイミングがベストだったのかと言われるとそうでない気もして、でもタイミングなんて図る前にその時は「来て」しまうんだよな…と思ったり。